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シャノン限界から考える無線LAN高速化のアプローチ

おはようございます。

無線LANは規格のアップデートの伴い、通信速度の高速化を実現してきました。

初代の802.11無印のときは、最大スループットが2Mbpsでした。しかし、11acでは規格上の最大スループットが6.9Gbpsです。無印から11acで、規格上は3450倍の高速化です。無線LAN 15年~20年あまりの歴史で、3450倍のスピードアップですから、とんでもないハイパーインフレっぷりですね。

ところで無線工学をちょっとでも齧ると、通信容量の理論限界としてシャノン限界というものが出てきます。

今回はこのシャノン限界をもとに、どうやって無線LANが高速化してきたか、今後の高速化のアプローチに関して考えていきます。

シャノン限界とは

通信容量定理によると、通信におけるデータ転送速度の最大理論値は、以下の式で表すことができます。こちらを、論文を発表したシャノンにちなんで、シャノン限界と呼びます。

C=B * Log2(1 + S/N)

Cは通信容量(速度)[bps]、Bは帯域幅[Hz]、S/NはSN比です。

これ以上の速度は、どうやっても出せないという理論値限界ですね。

なお、どうやったらこの理論値限界で通信できるかは、わかっていません。よくある、やり方はわからないけれど、理論値だけ先に出ているパターンです。このため、世界中で日々新しい無線方式が研究されているわけですね。

ちなみにこの式、1948年の論文で発表されました。無線LANが世に出る、およそ50年前です。

数式だけでは味気ないので、具体的に数字を入れて計算してみます。

  • 帯域幅Bを18MHz (無線LANで20MHzバンドで通信している場合の実効バンド幅に相当)
  • 信号強度Sを-50dBm (そこそこの通信環境ならば、これくらいじゃないでしょうか?)
  • ノイズを-80dBm (フロアノイズは、多めでしょうか?)

S/N比はこの場合単純に引き算すればよいので、S - N = 30dBm。シャノン限界におけるS/Nは、デシベル値から比率に戻す必要があります。30dBm = 10^3になります。

通信容量(スループット)Cを計算すると、C = 18[MHz} * Log2(1+10^3) ~ 180Mbpsです。

11acでバンド幅20MHz、1x1MIMOにおける最大速度は86.7Mbps(MCS8)なので、理論値に対して結構余裕があるように見えますね。(計算間違えたかな?)

通信速度をシャノン限界に近づけるためのアプローチとして、下記の方法があります。

  1. シャノン限界を実現する通信方式を探す
  2. バンド幅を増やす
  3. S/N比を大きくする
  4. シャノン限界を超える方法を探す

シャノン限界を実現する通信方式を探す

通信の最大容量(スループット)は、シャノン限界として理論的に求められています。しかし、どのような通信方法であればシャノン限界を実現できるかは、理論では示されていません。

そこで、世界中の無線研究者が研究を行ったり、新しい通信方式が生まれたりしています。

無線LANでは、以下のような方法が、このアプローチでの速度アップに相当します。

  • 変調方式の変更
  • 符号化率のアップ
  • ガードインターバル時間の縮小
変調方式の変更

11bと11a/g以降では、二次変調方式がDSSS/CKKからOFDMに変更になっています。

また、一次変調もBPSKから64QAM(11n)→256QAM(11ac)とアップデートしています。

一定時間により多くの情報を送信できるように、変調方式を変更して速度を上げるアプローチです。

符号化率のアップ

無線通信では、周囲のノイズ等の影響で、送信したデータと受信したデータが一致しないことがあります。

無線LANでは、送信したデータと受信したデータが正しいかをチェックする、また一定以下のデータ化けであれば受信側で修復できるようにするためにCodingという手法を用いています。

ただCodingを使うと、通信のデータに余分なデータを付加する必要があります。余分なデータ分、理論値から速度は落ちてしまいます。

無線LANでは、Coding 1/2→3/4→5/6といった方法を使って速度向上を行っています。

ガードインターバル時間の縮小

現実の無線通信だと、直接来た電波に加えて、壁等に反射したのち到達する電波(反射波)が存在します。反射波は、直接来た電波より少し遅れて到達します。このためデータを連続送信すると、反射波で到達したデータと次の直接波のデータの区別ができなくなってしまいます。

このため、無線LANでは前のデータの反射波と、次のデータの直接波を区別するためにガードインターバルという通信を行わない時間を設けています。

ガードインターバルの期間中は、通信を行わないため、当然理論値から速度は落ちてしまいます。

11nでは、これまでのガードインターバル(800ns)に加えて、ショートインターバル(4000ns)を新たに導入して、速度向上を行っています。

通信の帯域幅を増やす

通信を行う帯域幅Bを増やすことで、通信速度を上げるアプローチです。

無線LANでは、通信帯域を20MHz(11a/g)→40MHz(11n)→80MHz/160MHz(11ac)と拡大することで、通信速度をアップしています。

この方法、帯域が倍になれば、通信速度も倍になるため、実現できれば効率は良いです。現実の無線LANでも帯域が倍になれば、通信速度は倍になっています。(正確に言うとガードバンドがあるため、倍以上の速度になっていますが。)

ただしこの方法、残念ながら無制限に使うことはできません。無線通信で使えることができる帯域幅は、電波法で厳しく制限されています。

また帯域を広くすると、他の無線LANと混信する可能性が大きくなります。

速度を簡単に上げられる方法ではありますが、現実はなかなか難しいですね。

S/N比を大きくする

S/N比を大きくすることで、通信速度を上げるアプローチです。このアプローチの速度アップは、以下のやり方が考えられます。

  • 送信出力を増やす
  • 性能の良いアンテナを使う
  • ビームフォーミングを活用する
送信出力を増やす

送信出力を増やせば、信号強度が大きくなるためS/N比を簡単に上げることができます。

ただし、電波法で最大送信出力に制限がかかっています。そして世の中の無線LAN機器は、すでに最大出力ぎりぎりで設計されています。

なのでこの方法、現実には厳しいです。

性能の良いアンテナを使う

性能の良いアンテナを使えば、送信出力を増やすのと同じような効果があります。

こちらも、電波法でアンテナの最大利得に制限がかかっています。

現実にはPCやスマートデバイスの小型化に伴い、アンテナ利得にしわ寄せがきています。このため、電波法の規制に関してはアンテナは余裕がある状態です。しかし技術革新が起こらない限りは、小型化を維持しつつ劇的に良くなることは難しいでしょう。

ビームフォーミングを活用する

通常のアンテナは、電波をどの方向にも飛ばす無指向アンテナです。ビームフォーミングは、電波を飛ばす方向を制限することで、特定の方向により強く電波を送ることができます。すなわち、信号強度Sを高めることができます。

無線LANでは、11nからオプションで導入されました。

シャノン限界を超える方法を探す

シャノン限界が理論値だと言っていながら、シャノン限界を超える方法を探すというのは、ちょっと表現がおかしいですね。シャノン限界を求めるにあたって条件があるので、その条件に当てはまらない通信方法を探すと言った方が正確な気がします。

この方法のアプローチでは、MIMOによる高速化があります。

MIMOは、送信・受信側のアンテナを倍にすれば、通信速度も倍にできる技術です。

無線LANでは、11nから導入されました。

現実の無線LANでも、アンテナを倍にするだけで、速度を倍にすることができます。非常に効率の良く速度を上げることができます。

ただMIMOの欠点は、物理的にアンテナを増やす必要があることです。昨今の小型化の流れだと、物理的にアンテナを配置するスペースが無いんですよね。おそらく、PCやスマートフォンといった子機側に配置できるアンテナのMaxは、1~3程度ではないでしょうか?

まとめ

シャノン限界の式から、無線LAN高速化のアプローチを分類してみました。様々なアプローチで、無線LANの高速化を実現していますね。

個人的には、11acで効率の良く高速化できる「通信の帯域幅を増やす」、「MIMO」はやり尽くしているのではないかと考えています。このため、これまでのような勢いの高速化は難しいのではないでしょうか?

実際、次期無線LANの11axでは、無線が混みあった環境でも安定通信できることを第一目標として掲げています。

この予想が当たるかどうか、今後の無線LANの動向を見守っていきたいです。